こんにちはユキです。
人に何かを贈るときに、熨斗(のし)がついた紙で品物を包んだり、現金を熨斗がついた紙袋に入れたりしますが、一般的に言われる「熨斗掛け」とか「熨斗包装」は、慶弔においては重要な役割を担っていると思います。
この記事では、私が秘書業務の中で対応してきました、贈答のときの熨斗紙や熨斗袋の扱いについて、詳しくご紹介させていただきたいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
また、贈答対応の中で秘書として私が感じたこともご紹介させていただきます。
熨斗紙や熨斗袋といわれるものの構成要素
熨斗紙や熨斗袋の構成要素は「熨斗(のし)」「水引」「表書きスペース」「名前スペース」の4つがあります。
その4つの構成要素は次の熨斗袋の写真のとおりです。
それぞれの構成要素を説明します。
①熨斗(のし)
薄く熨(の)した鮑(あわび)を表し、生ものの象徴としています。
熨斗はお祝いの贈りものを包む紙や袋にはついていますが、香典袋などの不祝儀や見舞いへの贈りものにはつけません。
②水引(みずひき)
包んだ贈りものを結ぶためのもので、結び方によって贈り手の気持ちを表します。
また、封印の意味や魔除けの意味もあるようです。
③表書きスペース
「御祝」「御見舞」「御供」など贈り手の気持ちや贈る目的を書きます。
④名前スペース
贈り主の名前を書きます。
熨斗とは
熨斗とは、前述の構成要素で説明しましたように、贈りものを包む紙や、現金を入れる袋の右上についている細長い黄色いもののことで、正式には「熨斗鮑(のしあわび)」と言います。
鮑は不老不死の薬と言われ、長寿をもたらす食品でした。
そのために、鮑は縁起物としてお祝い事に使われるようなり、鮑を薄く熨したものをお祝いの贈答品に添えられるようになりました。
やがて簡略化され、熨した鮑の代わりに黄色い紙が用いられるようになり、現在では黄色い紙だけで作られた熨斗の他に、黄色い紙を紅白の紙で包んだ熨斗や、印刷をした熨斗などがあります。
熨斗鮑は、生ものの象徴として神事への供え物につけていましたので、魚などの生もの自体の贈りものにつける必要はなく、生臭いものが避けられる弔事にも熨斗は不要です。
また、病気や災害の見舞いのときも、熨斗鮑には引き伸ばすという意味がありますので、熨斗はつけません。
贈りものを包む紙を熨斗紙と呼んだり、現金を贈るときに入れる袋を熨斗袋と一般的には言われていますが、熨斗がついていない弔事の場合や、見舞いのときの贈りものを包む紙や袋も、熨斗紙や熨斗袋というのはおかしいですよね。
では、熨斗がついていない紙や袋はどのように呼べば良いのでしょうか。
贈りものを包む紙で熨斗がついていないものは「掛け紙」、熨斗がついていない現金を入れる袋は「金封」と呼べば良いようです。
また、弔事で使う金封は「不祝儀袋(ぶしゅうぎぶくろ)」と呼んでいます。
この記事では、熨斗がついているかいないかに拘わらず、贈答品を包むものを「熨斗紙」、現金を贈るときに入れる袋を「熨斗袋」と、便宜的に表現したいと思います
水引の意味と種類
水引とは
水引とは、贈りものにかける紅白や黒白などの帯紐で、水引の形状や色によって贈り手の気持ちを表します。
また、水引には未開封であるという封印の意味や、魔除けの意味もあるようです。
水引の結び方の種類
水引の結び方を大きく分けますと、「何度でもあったら良いこと」と「一度きりにしてほしいこと」の2種類があります。
蝶結び
両方に輪を作り蝶のように見える「蝶結び」は、何度でも結び直すことができますので、何度でもあったらいいと思われる、出産・昇格・受賞(受章)などの贈答のときに使います。
蝶結びは花びらのようにも見えますので、「花結び」とも言います。
結び切り
しっかり結ばれている「結び切り」は、二度とほどけないようになっていますので、一度きりにしたい、結婚・見舞い・弔事などの贈答のときに使います。
結び切りは「本結び」とも言います。
あわじ結び
「あわじ結び」も「結び切り」と同じく、一度結ぶとなかなかほどけませんので、結婚・お見舞い・弔事などの一度だけにしたいことの贈答に使います。
特に、両端を持って引っ張ると更に強く結ばれることから「末永く良いお付き合いをしてください」という意味もあり、華やかな形から結婚祝いによく使われます。
水引の色
水引の色は、お祝い事(慶事)には紅白・金銀・赤金を使い、お悔やみ事(弔事)には黒白・黄白・青白・銀が使われます。
濃い色が右、薄い色が左に結ばれています。
水引の選び方
何度でもあったら良いことは「蝶結び」、一度きりにしてほしいことは「結び切り」や「あわじ結び」と言われても、判断がつきにくいときがありますよね。
私は水引を選ぶときに、相手にどのような気持ちで贈るのかを考えながら、水引を選ぶようにしています。
例えば次のような感じです。
・新築祝い:これから何回も新しい社屋や工場を建てて、貴社が発展していただくことを祈ります👉蝶結び
・昇進祝い:これから何回も昇進してどんどん出世してくださいね👉蝶結び
・創立や創業記念の祝い:貴社が今後とも何回も創業記念日を迎え、発展することを祈ります👉蝶結び
・長寿祝い:これから何回も長寿祝いを重ねて、いつまでも元気で長生きしてください👉蝶結び
・御礼:これからも幾度となくお世話になると思いますがよろしくお願いします👉蝶結び
・結婚祝い:今回の結婚だけで末永く幸せになってください👉結び切り・あわじ結び
・見舞い:もう二度と病気にならないでくださいね👉結び切り・あわじ結び
・香典など不祝儀事:不幸ごとはこれっきりにして、これからはいいことが起こりますように祈ります👉結び切り・あわじ結び
表書きの書き方
表書きとは
熨斗紙や熨斗袋の上段中央に、「御祝」や「御供」などの文字が書かれていますが、この文字を「表書き」と言います。
元々は贈りものをする際に、目録をつけるしきたりがあったそうですが、次第にしきたりが簡略化され、包みの表に書くようになったものが表書きだそうです。
表書きは、短い文字で贈り手の気持ちを伝えます。
主な表書きは次のとおりです。
婚礼 | 御祝、寿、御結婚御祝 |
---|---|
結婚記念・長寿 | 寿、(金婚、還暦)御祝 など |
祝事一般 | 御祝、寿、御祝儀、(御入学、御安産、御新築)御祝 など |
慶事お返し | 内祝、寿、快気内祝 など |
年中行事 | 御年賀、御年玉、御中元、御歳暮 など |
見舞い(病気・災害) | 御見舞、(御入院、水害、近火、著中、寒中)御見舞 など |
葬儀 | 御香典(奠)、御香料、御霊前、御仏前、御榊(玉串)料 など |
法要 | 御仏前、御霊前、御供、志、偲草、御布施 など |
その他 | 御礼、粗品、薄謝、寸志、心付、御餞別、御車料、月謝 など |
表書きを書くときに気をつけていること
熨斗紙や熨斗袋の表書きを書くスペースは限られており、あまり多くの文字を書くことができません。
この少ないスペースにどのような表書きを入れれば、こちらの気持ちが充分に伝わるかということを、私は贈答の際に考えています。
例えば、取引先の新社長へのお祝いの表書きは、「御祝」としないで「社長御就任」を右上に小さく書き、中央に「御祝」と書いています。
結婚のお祝いも、右上に「御結婚」と書き、中央に「御祝」と書いています。
以上のことは常識の範囲内ですので、皆さんもされていると思います。
次の例は、取引先が新社屋を建てるのにあたり、自社の製品を納入させていただいた場合、お祝いに付ける熨斗紙の表書きは「御祝」でも「新社屋御竣工 御祝」でもなく、「御礼」にするケースもあると思います。
その際に贈る品物やお金には、竣工のお祝いの気持ちが入っているだろうということは、先方も察しがつくと思いますので、そこに「弊社の製品をお買い上げいただきまして有難うございます」という気持ちも加えることができます。
また、中元や歳暮を贈るときの表書きは、「御中元」「御歳暮」とせずに、お世話になっている相手には「御礼」にしたり、親しい相手には「お元気ですか」と書いても良いと思います。
そのような表書きにしても、中元や歳暮の時期に届けば、先方も「御中元」「御歳暮」の表書きの代わりだなと気付いてくれるはずです。
時々、表書きや名前を書かずに熨斗や水引だけが印刷された、いわゆる無地熨斗を品物に付けているケースを見かけます。
これは相手に気を遣わせないためだそうですが、私は上司から無地熨斗は失礼だと教えられました。
確かに白紙の状態だと、誰から何のために贈られたのかわかりませんよね。
そのような場合、「心ばかり」や「季節のお見舞い」など、堅苦しくないような表書きにしています(最近では「心ばかり」と印刷した、熨斗紙や熨斗袋も売られています)。
また、直接お渡しする場合は、熨斗紙を付けないようにして、「心ばかりですが・・・」と言って渡すようにしています。
贈り主の名前の書き方
熨斗紙や熨斗袋の下段中央に贈り主の名前を、表書きの文字より少し小さく書きます。
個人名はフルネームを書きます。
会社名や役職を入れる場合は、役職を少し小さくします。
役職が例えば「代表取締役社長執行役員」のように、文字数が多くて書ききれない場合、「社長」だけでも良いと思います。
連名で贈る場合の名前の書き方
2人以上で贈るときは、目上の人から順に右から書きます。
書くところのスペースの関係で、熨斗紙や熨斗袋の下段に名前を書くのは、3人までにするのが良いと思います。
4人以上の名前を書くときは、代表者の名前だけを熨斗紙や熨斗袋に書き、その左に小さく「他一同」と書いたり、「○○株式会社役員一同」などとしたりして、別紙に全員の名前を書いて、それを熨斗紙や熨斗袋に添えます。
連名で贈る場合に、目上の人の名前を右からか左からか迷うことがありますが、そのときに私は「右に出る者はいない」という言葉を思い浮かべるようにしています。
この言葉の意味は、実力において勝る者がいないということで、一番の実力者が一番右にいるということなので、右に一番目上の人の名前を書くのだということを関連付けています。
熨斗紙や熨斗袋に書く墨の濃淡で気付かされた慶弔の本質
熨斗紙や熨斗袋に書く文字は、慶事の場合は濃い墨の筆で書きますが、「香典」や「御霊前」などの弔事の表書きや名前は、薄い墨で書くことが多くあります。
私が秘書になりたての頃、香典袋の字が薄くなっているのを見て、濃く書いた方がわかりやすいのに、どうしてわざわざ薄い墨で書くのだろうかと思いましたが、これは「悲しみの涙で墨が薄くなる」ということで、弔慰・哀悼を込めて薄墨を用いるのが正式な書き方だということがわかりました。
このときに、慶弔の決まり事にはそれぞれに意味があり、その意味を知ることが慶弔を知ることだと悟り、その後は何気なく行っている慶弔の決まりごとの本質を知ることにも努めるようになりました。
慶弔の本質を知ることにより、慶弔の対応が面白くなり、応用も効くようになったような気がします。
尚、現在は弔い用も濃い墨を用いることが多くなってきているようで、世の中の常識も変わっていっていますが、なぜ薄墨を用いるのかをわかっている私には、濃い墨を用いることができなくなっています。
私の個人的な経験を披露しましたが、慶弔マナーにはそれぞれに意味がありますので、その本質を理解するのが大事だと思います。
最後に
私は秘書になりたての頃より、ある程度慶弔に関わる年数が経ったときの方が、熨斗紙や熨斗袋の表書きに悩むようになりました。
熨斗紙や熨斗袋の表書きの役割がわかるに従って悩むようになったのです。
慶弔で大事なのは、こちらの祝意や弔意を先方に伝えるということです。
でも、祝意や弔意など、気持ちという目に見えないものを贈るというのは難しいものです。
祝意や弔意の気持ちを目に見えるように、品物やお金といった形にして贈り、そのときに喜びや悲しみの気持ちを込めるために、熨斗紙や熨斗袋の表書きがあるのだと上司から教わりました。
私はそれまで何も考えずに、何でもかんでも「粗品」という表書きにする傾向があったのですが、上司から教えてもらったことがきっかけで、慶弔の本質がわかったような気がして、表書きを真剣に考えるようになり、それにつれて悩むようになりました。
ということで、今回は贈る相手にこちらの気持ちを伝える大事な役割を担う、熨斗紙や熨斗袋について書いてみました。
この記事のポイントは次のとおりです。
・熨斗紙や熨斗袋の構成要素は、「熨斗」「水引」「表書きスペース」「名前スペース」で、熨斗がついていないものもある。
・生ものを贈るとき、弔事や見舞いの贈答のときは熨斗をつけない。
・熨斗がついていない包み紙は「掛け紙」、熨斗がついていない現金を入れる袋は「金封」と呼び、弔事で使う金封は「不祝儀袋(ぶしゅうぎぶくろ)」と呼べば良い。
・水引には、何度でもあったら良いことのときに使う「蝶結び」と。一度きりにしてほしいことのときに使う「結び切り」と「あわじ結び」がある。
・表書きは、短い文字で贈り手の気持ちを伝える。
・贈り主の名前は、下段中央に表書きの文字より少し小さく書く。
・2人以上で贈るときは、目上の人から順に右から書く。
今後とも慶弔の本質を考えながら、対応していきたいと思います。